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リハビリノート
NOTE

サルコペニアについて ~握力と健康の視点から考える~(1)

はじめに

 人間は、加齢に伴い身体機能が低下(虚弱化)すると考えられます。  転倒、認知機能の低下、尿失禁、骨粗鬆症、筋肉の衰弱、歩行障害や関節障害など、いずれも高齢期の生活に負の影響をもたらす症状が現れ、その中でも特に筋肉量の減少症がサルコペニアです。加齢にともなう筋量の減少や筋力の低下は、身体機能を低下させ、転倒・骨折や寝たきりの一因となり要支援・要介護状態に至ります。また寝たきりに至らずとも、日常生活動作や生活の質を悪化させるなど、サルコペニアは健康長寿の実現に対する大きな障害になります。特に、超高齢社会にあるわが国においてその対策は急務です。以前、過去のメルマガでロコモティブシンドローム(以下:ロコモ)については述べられていますが、今回はその中でも「ロコモの入り口・基礎疾患と称されるサルコペニア」と「握力と健康の2つの視点から考えるサルコペニア」について2回シリーズでご紹介いたします。今回は、サルコペニアの概要についてです。

サルコペニア

 「加齢に伴って生じる骨格筋量の低下」をサルコペニア(筋力減少症)といいます。筋肉を表すギリシャ語の「サルクス」と減少を表す「ペニア」を組み合わせた造語で、1989年にアメリカの栄養学者であるローゼンバーグによって提唱されました。

「サルコペニア」の概念分類

サルコペニアの分類には次の3つがあります。

  1. 単なる「筋肉量」の低下だけを示すプレサルコペニア
  2. 「筋肉量」の低下に、「筋力」または歩行速度などの「身体能力」のどちらかの低下がみられるサルコペニア
  3. 「筋肉量」も「筋力」も「身体能力」も低下する重症サルコペニア

「サルコペニア」発生機序

通常筋肉は運動による刺激やタンパク質等の摂取により維持・増加します。
人間は1日の間に筋肉の合成と分解を繰り返しますが、成長期ではこの合成と分解のバランスがプラスとなり、十分な量のタンパク質摂取により筋肉は増加します。しかし高齢者では、運動や食事の摂取による筋肉の合成が低下します。加えて食事量、特にタンパク質(アミノ酸)摂取量や運動量の減少により、合成・分解のバランスが崩れることで、筋肉が減少する傾向が現れます。

では他の様々な因子の筋力低下との違いは何でしょうか。例として、神経筋疾患ではその病態から筋細胞そのものが減少し、さらに体の不自由さや疲労感から不動となり、廃用性筋萎縮が生じます。つまりサルコペニアは、他の筋力低下と違い様々な要因が複雑に絡み合うことで筋肉の減少に至ります。しかし、詳細な部分については未だ解明されていないのが現状です。

「サルコペニアへの指導」~栄養摂取の観点から~

実際にサルコペニアの人は、60~70歳で 5~13%、80歳を超えると11~50%に及びます。筋肉量を維持・増進するためには、運動と適切なアミノ酸補給、ビタミンDの補充が重要です。特にバリン、ロイシン、イソロイシンとういう分岐アミノ酸(BCAA)は身体のタンパク質増加に役立ち、運動時のエネルギー源としても消費されます。タンパク質の1日の食事摂取基準量は、70歳代以上で男性60g、女性50gです。肉類やチーズの30g中に7g程度、牛乳やヨーグルトでは 120g中に4g程度含まれます。分岐鎖アミノ酸は、1日2~4gを目安に運動前後に摂取します。ビタミンDには、骨を成熟させ、骨の重要な成分であるカルシウムを腸管から吸収しやすくする働きがあります。さらに近年、このビタミンDが筋肉や筋力の保持・増進に関連し、身体のバランスを保ち、転倒予防に役立つことも確認されています。ちなみに転倒予防のために、高齢者に推奨されるビタミンDの1日摂取量は10~20μgであり、さんま、鮭の切り身、まぐろの刺身など主に魚に多く含まれます。

次回は、サルコペニアについてより具体的に、握力と健康の2つの視点から紹介したいと思います。

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