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リハビリノート
NOTE

整形外科領域画像診断の変革 ~超音波診断装置の普及~

 みなさんもご存知の通りX線画像は整形外科の基本であり、世界中に普及し、誰もが簡単に検査を受けられます。

 X線画像の歴史は 100年を超え、先人たちの積み重ねが今日の整形外科学の礎を築き上げてきました。長く診断学の主役であったため、必然的に整形外科では骨が重要な情報源となり、骨を中心に病態とその治療を考えてきました。1970年代に登場した CT、MRIはX線画像の弱点である骨の内部病変、軟部組織の描出を可能にしました。X線では見えなかったものが捉えられるようになったのです。整形外科学の進歩は、まさに画像診断技術の進歩と足並みをそろえてきたと言っても過言ではありません。

 ここで超音波の歴史を振り返ってみたいと思います。ヒトが超音波を作り出せるようになったのは、1880年のことで、宝石の表面に小さな埃が付着することをきっかけにして、水晶に圧力をかけると電気が生じる圧電効果が発見されてからです。そして、ヒトの生活に応用されるのは、1912年に起こったあの有名な豪華客船タイタニック号の沈没事故がきっかけです。船から海中の氷山の位置を調べる方法として、水の中で減衰しにくい超音波が跳ね返ってくるまでの時間を測定し、1914年には3km先の氷山を見つけられるようになります。その年に始まった第一次世界大戦では、潜水艦の位置を知る目的にも利用されます。このときに作られたものが、現在の医療用超音波発生装置の基礎になります。

 医療の分野に超音波が登場するのは1950年代で、超音波の組織破壊作用を生かして、末期癌の痛みやパーキンソン病に対して脳の一部を破壊する試みがなされます。また、現代でも行われている超音波による理学療法もこの頃から始まります。診断の分野でも、この頃から胆石や乳腺腫瘍に応用され始めますが、何といっても画期的だったのは、2次元的な断層像が描けるようになったことです。

 では、超音波診断装置が普及してきた理由とは?メリットとは何でしょうか?
 1)侵襲、被爆等のリスクを伴わない
 2)X線画像より素早く身体の内部情報が得られる
 3)CT・MRI より空間分解能・時間分解能が優れている
 4)装置そのものを簡単に持ち運べる
 5)強力なコミュニケーションツールとなる
 6)診療・評価時間が大幅に短縮できる
 7)医療費削減に貢献できる

 みなさんは超音波のこれらメリットをご覧になってどう感じるでしょうか?超音波は過去30年でほとんど全ての診療科で超音波が一般化されてきましたが、整形外科運動器領域では10年遅れて、近年やっと整形外科の医師はもちろんのこと、理学療法士などのコメディカルの臨床や研究の場においても急速に普及してきました。

 整形外科領域における超音波の普及は診療される患者様ばかりではなく、診療する医師や理学療法士などのコメディカルに対しても大きな恩恵をもたらします。なぜなら、超音波装置を使いこなすために必要なのは、解剖学と整形外科の知識そのものであるからです。また、小型化、軽量化が進んだことによりベッドサイドや院外のスポーツ現場で威力を発揮しています。運動器超音波の普及・啓発、診療から治療まで全てを行う日本の診療スタイルにマッチしていることに加え、整形外科領域の診療、評価の質を引き上げることに貢献できると推測できます。

 これは近年、装置のデジタル化、高周波化により画質が飛躍的に向上し注目を集めてきた超音波診断装置がリアルタイムに運動器の損傷状態、動的な異常、血流、組織弾性を評価することが可能となり、整形外科診療にとって必要不可欠なモダリティとなりつつあることがあげられます。

 以上のことが、専門分野の手術に特化し、画像診断、保存治療を他科に委ねる欧米の整形外科の追従を許さないものへとなり、欧米発の画像技術であるX線・CT・MRI が整形外科分野の発展に大きく寄与したように、これからは日本発の技術である超音波画像が整形外科領域の診療、評価、治療の質の向上を飛躍的に進歩させる原動力となるでしょう。

引用文献

皆川 洋至 学問寛仁~整形外科診療のパラダイムシフト~
日本整形外科超音波学会 201
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